宇都宮地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1958年2月25日
原告 栃木化成株式会社
被告 栃木県地方労働委員会
補助参加人 栃木化成栃木工場労働組合
主文
一、被告が、申立人本件補助参加人、被申立人原告間の栃地労委昭和三十一年(不)第三号救済命令申立事件につき昭和三十二年二月十四日になした別紙救済命令書、主文一同四の救済命令を取消す。
二、右命令書主文二の救済命令中原告に対し賃金問題について栃木県労働組合会議及び栃木地区労働組合会議との団体交渉を忌避してはならないと命じた部分を取消す。
三、右命令書主文三の救済命令中原告に対し労働協約、賃金問題について補助参加人組合との団体交渉に応ぜよと命じた部分を取消す。
四、原告のその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用は二分しその一を原告の負担としその一を被告補助参加人の連帯負担とする。
事実
第一、請求の趣旨と答弁
原告訴訟代理人は被告が申立人本件補助参加人、被申立人原告間の栃地労委昭和三十一年(不)第三号救済命令申立事件につき昭和三十二年二月十四日になした別紙命令書のごとき救済命令を取消す、訴訟費用は被告、補助参加人等の負担とするとの判決を求め、被告訴訟代理人(指定代理人も含む。以下同じ)補助参加人訴訟代理人は原告の請求を棄却する判決を求める旨答弁した。
第二、請求原因事実
原告訴訟代理人は
一、原告は脱色用活性炭の製造並に販売を業とする株式会社であり補助参加人は昭和三十一年四月頃原告会社栃木工場の工員(以下臨時工と区別して本工と略称する。)を以て結成された労働組合である。
二 (一) 原告はその賃金支払を昭和三十一年六月以降十月まで本工につき各月十三日乃至三十日臨時工につき各月五日乃至十二日遅配し、又同年十月の給料日に全臨時工に一人三百円乃至五百円位の臨時手当を支給した。
(二) 同年十月中補助参加人が職場再編成、賃金、労働協約の諸問題を案件として原告に団体交渉を申し入れた際、原告は職場再編成問題については交渉を拒否し他の問題については補助参加人との交渉には応じたがその委任を受けた栃木県労働組合会議及び栃木地区労働組合会議との交渉を拒否した。
(三) 原告は同年十月一日職場再編成の人事異動を実施したが臨時工である稲垣裕司をボイラー副班長に任用した。
三、補助参加人は同年十一月初旬二の原告の諸行為をそれぞれ労働組合法第七条第一項第一号乃至第三号の不当労働行為であるとして別紙命令書理由第一の如き理由により(従つて原告の前記二の(二)の行為については職場再編成以外の二問題についても原告が補助参加人との団体交渉にも応じなかつたとして)被告に対し同命令書主文一乃至四の如き救済命令を求めた。
四、被告は右申立に対して右命令書理由第三記載の如く事実認定並びに見解の下に同命令書主文一乃至五の如き救済命令をなした。
五、然し右救済命令には次の如き違法がある。
(一) 右の如く臨時工と本工との間に賃金支払につき遅速が生じたのは次のような事情による。即ち、昭和三十年秋頃よりイオン交換樹脂と云う活性炭と同様の脱色効果がありしかも極めて安価な製品が進出したため活性炭の需要がなくなり原告は極度に経営不振に陥つたので同三十一年四月頃その従業員を約半減し再建に努めたところ同年六月頃漸次経営状態が好転する兆が見え人員の不足を来して来たが一方正規に人員を雇入れる程確実な見透もなかつたので臨時工を以て補うこととした。然し当時原告の経営内容については世間に信用がなかつたので賃金については現金で遅配なく支給することを条件にしないと臨時工を雇傭することは困難であつたので補助参加人にも諮りその了承を得て臨時工とは雇傭に際し賃金支払については遅配しないことを特約した。ところが、その後程なく原告会社の経営状態は再び悪化したため本工並に臨時工に前述の如き賃金遅配をせざるを得なくなつたが、右の如き臨時工との約束がありしかも右約束は前述の如き経緯でなされたので右約束を履行しないと以後の臨時工の求人に差支えるので右臨時工との約束を履行したため右の如く本工との間に差異が生じたにすぎず組合員であるが故に本工を不利益に処遇したものではない。又原告が同年十月臨時工に対し臨時手当を支給したのは補助参加人がその頃月余にわたる残業拒否ストライキを行つた中にあつて臨時工が早出残業をなして生産に努めたのでその労を労うために煙草銭の意味で支給したにすぎず非組合員であるから臨時工を優遇したのではない。右の如く原告の右二行為は原告がその経営上止むなくなした行為であつて組合員であるから乃至は組合活動をなしたから本工を臨時工と差別して不利益に待遇したものではなく労働組合法第七条第一項第一号の不当労働行為には当らない。
(二) 原告が職場再編成問題についての団体交渉を拒否したのは元来団体交渉権は労働者が労働力をなるべく有利に提供するために労働組合に認められた権利であり従つてその対象は労働提供に際しての条件及び直接これと関連する問題に限らるべきであるが、職場再編成問題は一旦提供された労働力を如何に活用するかの問題であつてそれは使用者が企業目的企業の経営状態から専権を以て合理的に合目的的に決すべき事項であつて団体交渉の対象とはならないからその拒否は労働組合法第七条第一項第二号の団体交渉の拒否ではない。又栃木県労働組合会議、栃木地区労働組合会議代表との団体交渉を拒否したのは補助参加人組合が原告に申入れた団体交渉の案件中賃金問題、労働協約の点については昭和三十一年十月四日同年十一月一日に右組合と団体交渉を行いほぼ了解点に達していたからも早第三者の手を煩す必要がなかつたからであり職場編成問題については前述の如き理由からであり、正当の事由なく団体交渉を拒否したものではないから労働組合法第七条第一項第二号の不当労働行為ではない。
(三) 職場再編成の問題は(二)で述べたように原告の専権事項であり特に既述した如く原告の経営は活性炭の強敵であるイオン交換樹脂の出現のため極度に不振となつて居たのでありこの危機乗り切りのためには労働力をもつとも有効に経済的に使用することが急務であつたので職場を臨時工本工の区別なく人材主義能力本位に再編成することとし選考の結果適任者と認めて稲垣裕司をボイラー班の副班長に任用したのであつて非組合員である臨時工を副班長に任用しこれによつて組合員である本工に精神的影響を与え補助参加人の組合活動を衰退せしめんとの意図に出たものではない。従つて右は労働組合法第七条第一項第三号の不当労働行為ではない。右の如く被告は不当労働行為でないものを誤つて不当労働行為と認め前記救済命令をなしたのであるから右命令は違法であり取消されるべきである。
第三、被告並に補助参加人の主張に対する答弁
被告並に補助参加人が別紙命令書理由第三の記載を引用してなす主張中請求原因事実に合致する部分は認めるがそれと抵触する部分は否認する。
第四、被告並に補助参加人の請求の原因に対する答弁
被告訴訟代理人並に補助参加人訴訟代理人は次の通り述べた。
一、請求原因事実一乃至四は認める。
二 (一) 請求原因事実五の(一)の事実中昭和三十一年六月頃原告が臨時工を採用したこと同年十月頃補助参加人が原告主張の如き期間残業拒否ストライキを行つたこと及び請求原因事実一乃至四ですでに原告が主張している事実を重ねて述べている部分(例えば臨時工と本工の間に賃金支払に遅速のあつたことの如し。)は認めるがその他の事実及び法律上の主張については否認する。この点に関する被告並に補助参加人の主張は別紙命令書理由第三の一に記載してある通りである。
(二) 請求原因事実五の(二)の中原告が補助参加人と原告主張の両日賃金労働協約問題を案件に団体交渉をなした事実及び請求原因一乃至四ですでに主張している事実を重ねて述べている部分は認めるがその他は否認する。この点に関する被告並に補助参加人の主張は別紙命令書理由第三の二に記載してある通りである。
(三) 請求原因五の(三)の中原告が請求原因一乃至四ですでに述べている事実を重ねて述べている部分は認めるがその他は全て否認する。この点に関する被告並に補助参加人の主張は別紙命令書理由第三の三に記載してある通りである。
第五、証拠関係<省略>
理由
被告が申立人本件補助参加人被申立人本件原告間の栃地労委昭和三十一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき昭和三十二年二月十四日別紙命令書の如き救済命令を発したことは当事者間においても原告補助参加人間においても争がない。原告は右救済命令は違法であると主張するので以下順次判断する。
第一、別紙命令書主文一の救済命令について
原告が脱色用活性炭の製造販売を業とする会社であること同会社栃木工場の本工により昭和三十一年四月頃補助参加人組合が結成されたこと原告会社が同年六月頃より臨時工を採用したこと同年六月以降十月まで原告会社の賃金支払が各月臨時工については五日乃至十二日組合員である本工については十三日乃至三十日遅配となつたことは原被告補助参加人間に争がない。そこで先ず右賃金支払の遅速が本工を臨時工と差別して不利益に取扱つたものであるか否か換言すれば本工と臨時工との間に右の如き賃金支払の遅速を正当とするに足る労働条件その他の差異があるか否かを考える。成立に争ない乙第二乃至四号証の各一部乙第九、十号証証人長島猛同大橋庄吾同小島正雄同酒井正衛の各証言の一部同横塚重利同館沼利夫同桑原猪治同水越考一の証言争ない原告会社が昭和三十一年六月頃より臨時工を雇傭した事実を総合すると右臨時工の雇傭に当つては原告会社は賃金遅配はしないと約束し且つ補助参加人組合に対しては「臨時工の雇傭には右約束をしないと人を得られないから了承して欲しい、本工についても一、二ヵ月中に遅配は解消する」と申入れ右組合もこれを了承したことが認められ右認定に牴触する乙第三号証の一部は信用し難く他に右認定を左右すべき証拠はない。すると本工と臨時工との間には右約束の点において差異があつたものと云える。然し更に考えるに(一)証人酒井正衛同長島猛同小島正雄の各証言により原告会社の帳簿の写であることを認め得る甲第二乃至六号証成立に争ない乙第六号証証人大橋庄吾同稲垣裕司同館沼利夫の各証言の一部等を総合すると昭和三十一年六月乃至十月に原告が雇傭した臨時工は二十二、三名でありうち十二名は従前同会社に勤務していた者でありしかもその中には本工として勤務していた者もあること、争ない原告会社が職場再編成において臨時工を副班長に任命していること証人稲垣裕司同桑原猪治の証言により認められ反証のない原告会社のボイラー班の編成は本工一名臨時工一名より成りその他の班も同様本工臨時工が入組んで編成されていた事実等を総合すると臨時工は本工とは別に特殊の職場で特殊の仕事をしていたものではなく各班に別れて本工と同一職場で同種の仕事をしていたことが窺われ反証はない。(二)前出甲号各証成立に争ない乙第二、四、九号証甲第七、八号証証人横塚重利の証言によると臨時工は日給であり本工は時間給であるがその支払はいずれも月末一回払であることが認められ反証はない。(三)証人酒井正衛の証言成立に争ない乙第九号証によると臨時工の雇傭期間は二ケ月であり二ケ月毎に更新されることになつているが更に前出甲第二乃至四号証によると実際には殆んど右雇傭期間は更新され一方本工の中にも短期間に解雇になる者もあり本工との間に著しい差異はないことが認められ反証はない。(四)前出甲第二号証によると昭和三十一年五月以前においても昭和三十年十月頃より原告会社は賃金を遅配したがその際には臨時工と本工との遅配の日数は全く同一であつたことが明かであり反証はない。(五)本訴において本工と臨時工とに賃金支払に遅速を附けた理由として原告はただ右臨時工雇傭の際の前述の如き約束のみを主張しているに過ぎない。右(一)乃至(五)の事実を総合して考えると右約束の存在を顧慮しない場合には原告会社の本工と臨時工との間には賃金支払に遅速を附けるに足る仕事の内容その他の労働条件の差異はなかつたものと認められる。そして不利益な差別待遇であるか否かは実質的に均等に取扱われているか否かによつて決すべきであり前述の如く右約束の存在を除き元来本工と臨時工は均等に取扱われるべきであつたのであるからかかる場合において形式的に臨時工にのみ右特約をなし且つ本工の結成する補助参加人組合がこれを了承していたとしても賃金支払の遅速は本工にとつて不利益な差別待遇であることに変りはないと云わなければならない。
次に原告会社が本工を右の如く不利益に取扱つた意図について判断する。原告は求人対策として止むなく前記臨時工との約束をなし且つその約束履行のため右行為をなしたと主張し証人酒井正衛同小島正雄の各証言により原告会社の帳簿の写であることを認め得る甲第一号証前出甲第二乃至四号証右各証言等によると原告会社はその製品である活性炭と同様の効果あるイオン交換樹脂が市場に進出したため昭和三十年十月頃より経営不振となり翌三十一年四月頃までに従業員を数十名解雇したこと右臨時工を傭う頃は経営状態は好転しかけていたがなおいくらかの賃金遅配があつたことが明かであり反証はなく、又前述の如くその後に雇傭した臨時工中かなりの者が従前原告会社に勤務していた者でありこれを併せ考えると右雇傭の際臨時工の多くが賃金遅配につき懸念を抱いていたことは容易に窺われ従つて原告会社が右約束をなしたのは臨時工の右の如き不安を取除きその雇傭を容易ならしめるためであつたことは認めることが出来る。然しながら右約束の存在から直に原告会社の右行為が右約束の履行の意図でなされたとは断定出来ず、その旨述べる証人長島猛同小島正雄同酒井正衛同大橋庄吾同稲垣裕司同桑原猪治の各証言の一部、乙第九、十号の各一部はたやすく信用し難く他にその証拠はない。却つて、前述の如く右約束の際原告会社は同時に補助参加人組合と本工に対しても一、二ケ月中に賃金遅配を解消すると約束しながら全くこれを履行しないで顧みない事実、前出甲第二、六号証によると昭和三十一年六月以後雇傭された右臨時工二十三名の中賃金遅配のあつた昭和三十一年七月より同十月までの四ケ月中希望退職した者は七名に過ぎず他の者は遅配にも拘らず勤務していたことしかも右七名全員が遅配のため辞めた者と断定出来ず、一方右遅配のあつた頃でも新な臨時工の雇傭が出来ていること、更に右遅配の期間本工の退職者が十三名の多数であるのにその補充をなさずその後原告会社の経営状態が回復した同年十一月以後も殆ど従業員を新に雇傭していないことが明かでありこれ等の事実によると原告会社が従業員を確保するために既存の臨時工の退職を防ぎ且つ新規雇傭のためにすでに雇傭していた臨時工の賃金遅配をどうしても避けなければならない状態にあつたとは云えないことが認められる。右の如き諸事実によると原告会社が求人対策のため或いは道義的に右約束を履行する意図で臨時工にのみ賃金支払を早くしたものとは到底認められない。そこで進んで原告の右行為の意図を考えるに、第一に争ない昭和三十一年四月頃補助参加人組合が結成され同年十月頃原告会社と団体交渉をなし更に月余にわたる残業拒否ストをなしている事実によつて推認されるその頃補助参加人組合が盛に組合活動をしていた事実第二に後に認定する如き補助参加人組合或いはその上部団体との交渉の一部を不当に拒否した原告の態度、職場再編成における反組合的な態度、第三に右残業拒否ストをなした際臨時工が残業をなし原告会社か全臨時工に各三百円乃至五、六百円を支給したことは争がなく証人長島猛同横塚重利同館沼利夫同桑原猪治同浅見敏重同酒井正衛の各証言の一部成立に争ない乙第三、九、十号証の各一部によると右残業に対しては外に正規の残業手当が支給されていることそして右残業は原告会社の全部門につき全ストライキ期間中になされたものではなく主として二十四時間操業のボイラー部門で火を消さないためなされたもので通常の残業と異る特別困難な仕事をなしたものではないことが認められ右認定に牴触する乙第九号証の一部証人酒井正衛同小島正雄同長島猛の証言の一部は信用し難く他に反証はない。すると右臨時工へ支給した金員は特別各臨時工に支給する必要はなかつたものであつて、補助参加人がストライキ中しかも賃金の遅配をしながら右金員を支給したことは組合員に対するいやがらせと認められる。右認定に牴触する証人小島正雄同長島猛同酒井正衛の証言の各一部乙第九、十号証の各一部は措信出来ず他に反証はない。そして右第一乃至第三の事実を総合すると原告会社は本工が労働組合員であり且つ労働組合活動をなしたが故に右差別待遇に出たものと推認せざるを得ない。前述の如く右認定に反し右行為の意図が別にあつたとする各証拠は信用出来ないし他に反証はない。従つて原告の右行為は不当労働行為であると云わなければならない。ところで前出甲第二号証証人酒井正衛同館沼利夫の証言によると昭和三十一年十一月より原告会社は自発的に賃金遅配を解消しそれより一年以上を経た現在に至るまで右状態であることが明らかであり反証はなく従つて本救済命令のなされた当時も現在においても右不当労働行為は全く消滅して居ること勿論である。そこで次にかくの如く救済申立の原因となつた不当労働行為が消滅した場合においても救済命令をなし得るか否かが問題となるところ、救済命令においてはすでになされた不当労働行為排除のため原状の回復を命ずることの外その必要と利益があれば予想せられる将来の不当労働行為排除のため不作為命令をなすことも許されると解せられ、この点から考えると不当労働行為が消滅した場合においてもその必要がある場合は救済命令をなし得るとも考えられなくはないが、救済申立は不当労働行為がなされて始めてなし得るのであつてその危険の存在では足りないのであり本来救済命令は積極的に労働者の団結権の保障をはかるものではなく不当労働行為により歪められた状態のある場合に原状に回復せしめることにより労使対等の状態に復せしめて消極的に労働者の団結権を保障することを目的とし、前述の如き不作為命令は原状回復命令のみでは結局その実効を挙げ得ないような場合に例外的になされることを許されるに過ぎないものであるから既に不当労働行為が消滅している以上も早や救済申立はその理由がなく救済命令を発する余地はないと云わなければならない。従つてその点において本件救済命令は失当と解せざるを得ない。仮にその必要と利益があればかかる場合においてもなお救済命令を発し得ると解しても原告会社においては右の如く自発的に一切の賃金遅配を解消しすでに一年以上を経て居るのであるから特段の反証のない限り本件不当労働行為と同種の不当の不当労働行為のなされる虞れはないと云うべく原告会社の経営状態がかつて悪かつたことは右反証とはならず他に右の如き反証もないから結局現在右救済命令を維持する必要も利益もないのでその失当であることに変りはない。よつて本救済命令を取消すべく、これを求める原告の請求を認容し主文第一項の通り判決する。
第二、別紙命令書主文二、三の救済命令について
(一) 右三の命令について
昭和三十一年十月中補助参加人組合が職場再編成、賃金遅配、労働協約の締結等の諸問題を案件として原告会社に団体交渉を申入れ原告会社が職場再編成問題についてはこれを拒否し他の二案件についてはこれに応じ団体交渉を行つたことは当事者補助参加人間に争がない。原告は職場を如何に編成するかは原告会社の専権事項であつて団体交渉の対象とならないと主張するので考えるに職場編成とは一方如何なる製品を如何なる作業組織で生産するかと云う生産計画、作業計画であり従つて使用者が経営権に基き決定すべき事項でありそれに要する人員の調達異動も使用者の決定すべき事項であるが、他方右の如き職場再編成は必然的に元来労使間の合意で定められるべき労働者の職種就労の場所等の重要な労働条件に関連しているのであり、労働者の団結権が保障されているのも結局これ等の労働条件を対等の交渉によつて実質的に自由な合意で定めることを可能にするためであるからかかる問題につき団体交渉が許されないとするならば団体交渉の保障は無意味であるから団体交渉の対象となるものと解すべきである。そして本救済命令は別紙命令書主文三によると右職場再編成の案件についてのみでなく労働協約その他一切の労働条件問題についても団体交渉に応ずるよう命じたのであるから右命令中右職場再編成の問題について団体交渉を命じた部分を相当として認容し賃金問題、労働協約問題について命じた部分は前述の如くすでに団体交渉はなされて居りその必要はないから取消すべきであり、原告の請求も右範囲で認容しその余を棄却し主文第三、四項の通り判決する。
(二) 右二の命令について
栃木県労働組合会議(以下県労と略称する)及び栃木地区労働組合会議(以下地区労と略称する)が補助参加人組合の上部団体であり労働組合であることは当事者補助参加人の明かには争わないところである。そして昭和三十一年十月中補助参加人組合が原告会社と前述の如く団体交渉をなした際右県労、地区労との団体交渉を原告会社が拒否したことは当事者補助参加人に争がない。原告は団体交渉の案件中賃金問題、労働協約等についてはすでに補助参加人組合と原告間で交渉が行われ了解点に達したと主張し右二案件につき補助参加人と原告会社で団体交渉がなされたことは前述の如く争ないところであり、その中賃金遅配問題については前出甲第二号証によればその直後より遅配がなくなつて居る事実が認められ右事実と成立に争ない甲第十二号証証人酒井正衛同小島正雄の証言によると少くとも本救済命令のなされた時には既に右団体交渉の結果了解点に達し解決済みであつたことが認められ反証はないが労働協約の点についてはその証拠がない。更に職場再編成問題については前述の如く団体交渉の対象となるものであること明白である。そして元来当該労働組合に団体交渉権のある事項についてはそれがその労働組合に特殊の問題でない限りその上部団体も当該労働組合からの委任の有無を問わず団体交渉権を有すること明かであるが右労働協約、職場再編成の案件が上部団体の関与を許さない問題でないこと明らかであるから原告会社は右県労地区労とも団体交渉をなすべきであること勿論である。そして別紙命令書主文理由によると右命令では右三案件全部につき右の如き団体交渉を命じているので右命令中賃金問題以外の案件につき右団体交渉を命じた部分は相当であり賃金問題につき命じた部分はこれを取消すべきである。よつて主文第二項の通り原告の請求中本救済命令の取消すべき部分の取消しを求める範囲でこれを認容しその余を棄却する。
第三、別紙命令書主文四の命令について
原告会社が昭和三十一年十月一日職場再編成の人事異動をなし臨時工稲垣裕司をボイラー班の副班長に任用したことは当事者間に争がなく成立に争ない甲第七、八号証証人長島猛、同稲垣裕司等の証言によると原告会社の栃木工場はその頃各班に分れ各班には班長副班長が置かれその班内の作業の監督をなし且つ責任者となつて居り、右班長副班長には役付手当として一ケ月金五百円が支払われていたことが認められる。右認定に牴触する証人酒井正衛の証言の一部は信用し難く他に反証はない。そして成立に争ない乙第五乃至七号証同第八号証により窺われ反証のない臨時工で従来右の如き役付になつた者は殆どいなかつた事実成立に争ない乙第六、八号証証人横塚重利の証言により明かであり反証のない右職場再編成の人事異動において補助参加人組合の組合員中執行委員等数名が班長格下になつたこと、前出甲第三、六号証乙第六号証証人稲垣裕司同浅見敏重の証言により認められ反証のない右稲垣は従前も原告会社に勤務していたことはあるが昭和三十一年六月十二日新に雇傭され雇傭後当時まで僅か数ケ月を経たに過ぎずしかもボイラー工に必要な免許証も得て居らずボイラー工としての特別な技術も経験もなかつたこと他に経験のある者免許証のある者のないわけではなかつた事実等の諸事実を総合すると、右稲垣の副班長任命行為は臨時工を役付にし組合員である本工に精神的打撃を与えその団結を弱める労働組合に対する支配介入行為であると認めざるを得ない。右認定に牴触する乙第十一号証の一部証人小島正雄、同大橋庄吾、同長島猛、同酒井正衛の証言の各一部は措信し難く他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。すると右原告の行為は不当労働行為であること明らかと云わなければならない。然しながら前出乙第十一号証証人稲垣裕司同長島猛同小島正雄の証言によるとその後直に右稲垣は副班長を辞退し原告会社もこれを承認し、更に現在においては原告会社では右班長副班長の制度も廃止したことが認められ右認定を左右すべき証拠もない。然らばすでに本救済命令を待つまでもなく右不当労働行為は排除されて居るのであるから右救済命令は失当であり取消さるべきである。よつて主文第一項の通り原告の本請求を認容する。
第四、以上の如くであるから原告の請求中一部これを認容しその余を棄却し訴訟費用を原、被告補助参加人に按分して負担せしめ主文の通り判決する。
(裁判官 田尾桃二)
(別紙)
命令書
申立人 栃木化成栃木工場労働組合
被申立人 栃木化成株式会社
右当事者間の栃地労委昭和三十一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき当委員会は昭和三十二年一月二十四日第一五三回公益委員会議、昭和三十二年一月三十一日第一五四回公益委員会議、及び昭和三十二年二月十四日第一五五回公益委員会議において会長公益委員高橋徳、公益委員岩崎正三郎、同杉田一郎、同江原又七郎、同古沢共治郎出席して合議の上、左のとおり命令する。
主文
一、被申立人は従業員の賃金支払いについて申立人組合員と臨時工たる非組合員との間に自今遅速の差別を付けてはならない。
二、被申立人は団体交渉に当つて申立人が交渉権を委任した栃木県労働組合会議及び栃木地区労働組合会議から派遣された者との交渉を忌避してはならない。
三、被申立人は従業員の労働条件その他に関する労働協約について申立人が申入れた団体交渉に応じなければならない。
四、被申立人は臨時工稲垣裕司の副班長の職を解任し申立人組合員の中から副班長を任命すること。
五、右三、及び四、は本命令交付の日から十日以内に履行しなければならない。
理由
第一、申立人の主張の要旨
申立人の本件申立書等書面による陳述及び審問の際の主張を要約すれば次の如くである。
一、労働組合法第七条第一号違反救済申立について
(一) 申立人組合は昭和三十一年四月結成し、人員整理反対、賃金遅払いの解消、ベースアップ、労働協約の締結等要求して活溌に労働組合活動を行つてきたところ、被申立人会社は同年六月頃から漸次臨時工を採用するに至り、現在その数十三名であるが、賃金の支払いに当つて会社は組合員たる本工に対しては、同年六月以降各月十三日ないし三十日遅配するが、非組合員たる臨時工に対しては各月五日ないし十二日以上遅払いすることなく、組合員と非組合員との間に不当な差別をつけた。
右差別について被申立人は求人対策であると主張するが、申立人はこれを正当な組合活動をなしたるが故の不利益処遇と見なす。よつて労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として主文「一、」同旨の命令を求める。
(二) かつ、被申立人会社は、昭和三十一年十月分賃金支払いに際し組合員に内密に臨時工に対し臨時手当一人宛三百円ないし五、六百円を支給した。会社は従来年二回の臨時手当を支給してきたが昭和三十年から経営不振を理由にこれを打切つたに拘らず臨時工に対してのみこれを支給しその理由として、臨時工が組合の残業スト中特に骨を折つたこと、あるいは残業をなしたことをあげているが、事実の歪曲である。従つて本工たる組合員を嫌忌しての差別待遇と見るの外はなく、これも労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為と認める。
二、労働組合法第七条第二号違反救済申立について
(一) 申立人組合は被申立人会社が昭和三十一年十月一日実施した職場再編成(以下編成問題という)、労働協約、賃金遅配問題等重要案件を議題として同年十月二日、組合大会を開き協議したが、対会社交渉に組合単独では有利に進展しないとの判断に基き、栃木地区労働組合会議ならびに栃木県労働組合会議に交渉を委任することに決し、同年十月四日団体交渉を申入れると共に右委任の旨を会社に伝えたところ、会社は団体交渉はやらない話合いならやる、又第三者が加わつては団体交渉は出来ないとしてこれを拒否した。
(二) 申立人組合は前記大会の決議により同日無期限残業ストを行う旨会社に通告し、直ちにストに突入したが、一方同年同月十三日、二十二日の二回文書をもつて団体交渉の申入れをなした。これに対し、会社は同年同月十七日、二十六日それぞれ文書をもつて、話合いはするが第三者を交えての話合いは拒否する。
編成問題は話合いにも応じない趣旨の回答をもたらした。
(三) 同年十一月一日北沢専務の突然の申入れにより会社側と話合いをもつたが、冒頭同専務から団体交渉ではない話合いとして参考に承ると言われた。右は会社が依然として組合との団体交渉に応ずる意思のないことを明らかにしたものであり、右について何ら正当な理由を示さないから、これらは労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。よつて主文「二、」同旨の命令を求める。
三、労働組合法第七条第三号違反救済申立について
(一) 被申立人会社は昭和三十一年六月、同会社東京事務所在勤の酒井正衛なる職員を本件栃木工場に転勤させ実質上工場長代理とし同工場の再建に当らせてきたが、同年九月二十九日職場再編成計画を発表し、同年十月一日これを実施した。右によると同年六月臨時工として入社した稲垣裕司がボイラー職場で副班長に昇格しているため申立人組合は右臨時工の役付に反対し、本工の中から副班長を任命するよう被申立人に申入れた。しかし被申立人は「身分と職制は別個のものである」として右計画を強行した。これは被申立人が非組合員たる臨時工を優遇することによつて、組合員たる本工に精神的な影響を与え、終局的に組合の弱体化を狙う意図のもとになしたものと見る以外にない。従つて労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であるから主文「四、」同旨の命令を求める。
第二、被申立人答弁の要旨
被申立人の答弁書及び審問における抗弁を要約すれば次の如くである。
一、労働組合法第七条第一号違反救済申立について
(一) 被申立人が、賃金支払いについて、組合員たる本工と非組合員たる臨時工との間に差別を付けたのは、組合員であること又は組合活動をなしたことに何のかかわりはない。即ち、被申立人会社は昭和三十一年六月再建計画をたてて以来漸次経営が好転し、売上も二割以上上昇して人員の不足を来たした。しかし、まだ正規に人員を雇入れる見透しも確実とはなつていないため臨時工を採用することとした。右新規雇用は現金支給が条件でない限り至難と考えたので、当時本工に対し遅払いの状況下にあつたが、申立人の了解を求めるため話合つた。これに対し申立人から「差別をされては困る」との申入れもあつたが、被申立人から「自分のせがれに先に飯を食わせる訳にはいかないという気持を了解してほしい」と伝えてあるので申立人は了承しているはずである。しかし、被申立人の右方針も一ヵ月後には破綻をきたし、翌七月以降遅配となつたため数人の退職者を出すに至り、これを如何に解決するかについて苦心してきた。
従つて、組合員との差別等毛頭考える余裕はなかつた。
(二) 被申立人が、臨時工に対し昭和三十一年十月分賃金支払いの際臨時手当として金円を支給したことは、臨時工を特に優遇する意図でなく又組合員たる本工との差別を考えたものでもない。
即ち、臨時工は、申立人組合が昭和三十一年十月四日から月余にわたる残業ストを行つた中にあつて被申立人会社職員と力を合わせ早出残業等超人的な努力を払つて生産向上に努めたので、その労をねぎらうため、たばこ銭の意味で支給したに過ぎず他意はない。
二、労働組合法第七条第二号違反救済申立について
(一) 申立人組合は、職場再編成(以下編成問題という)、労働協約賃金問題について昭和三十一年十月一日以降数次にわたつて団体交渉を申入れてきたが、編成問題は被申立人会社の決定すべき事項である限り団体交渉の対象ではあり得ない、従つて拒否の問題は起らないものと考える。しかし組合の意向をいれ話合には応じてきた。
また、労働協約及び賃金問題については、かねてよりその都度話合いまたは団体交渉によつて双方納得の域に達しているが、同年十月四日及び同年十一月一日それぞれ重ねて話合及び団体交渉を行つているので団体交渉拒否の問題とすることは事実を誤つている。
(二) 申立人組合が交渉権を委任した上部団体(栃木地区労働組合会議、栃木県労働組合会議)の代表との交渉を、拒否したことは次の理由による。
編成問題は団体交渉の対象でないし、労働協約、賃金問題については前述のとおり話合いまたは団体交渉によつて了解点に達しており、第三者の手を煩わす必要はないと考えたので拒否した。
右のとおり正当な理由があつて拒否したことは、労働組合法第七条第二号違反の問題とはならない。
三、労働組合法第七条第三号違反救済申立について
(一) 被申立人会社が、臨時工稲垣裕司を副班長に任命したことは、臨時工を優遇しあるいは労働活動を阻害する狙いではない。
即ち、会社は再建という大目的のため昭和三十一年十月一日試験的に職場再編成を実施し、人事異動を行つたが、これが人選には、臨時工、本工の区別なく能力本位、人材主義で臨んだ。稲垣の場合も同様に、同人はかつて会社に勤務した経験があるので、総合的な判断から適任とみて任用したに過ぎず他意はない。
第三、当委員会の認定した事実及び判断
両当事者の主張、書証ならびに審問における証人の証言等により当委員会は次のとおり判断する。
一、労働組合法第七条第一号違反救済申立について
(一) 被申立人が従業員に対する賃金支払いに当つて、昭和三十一年六月以降十月まで、臨時工と本工との間に遅速の差別を付けたことについては当事者間に争がない。
(二) よつて本件差別が、申立人主張の如く正当な労働組合活動をなしたことに存するか、あるいは被申立人抗弁の如く会社経営上単なる求人対策として取られた措置であるかどうかについて検討する。
まず、被申立人は昭和三十一年六月以降臨時工を採用するに当つて現金支払いが条件でない限り求人不可能であつたと主張し、職業安定所からの求人をあげているが、審問において証人石井光雄は職業安定所から紹介されたものは二、三名であると証言しているので他の臨時工は会社が直接雇用したものとみるべきであるが、右雇用に際し会社と臨時工との間に「現金支払い」について話合いまたは約束があつたことの疎明がないし審問における全主張を通じても被申立人の右主張を措信するに足る証拠がない。
(三) なお、被申立人はその答弁書及び第一回審問において昭和三十一年七月以降遅配のため数名の退職者を出したと陳述しているがその調査調書においては組合が残業ストを行つたため月収が三千円も減じ組合幹部の行為に不満をいだいて退職した臨時工が六名もあると陳述し、その主張の一貫性を欠き右退職の原因が何れにあるかを疑わしめている。
(四) また、被申立人は本件遅配について申立人の了解を得てあると主張するが、申立人はこれを否定しているし、審問の全主張を通じても被申立人の主張を肯認するに足る根拠がない。
(五) かつ、被申立人は自分のせがれに先に飯を食わせる訳にはいかないという信条から差別をしたとも主張するが、賃金遅配は労働者にとつて最も深刻な問題であり、これについて本工と臨時工との間に差別をつけるにおいては、より客観的妥当性ある理由の疎明がない限り仮りに被申立人が組合運動を阻害する意図のものに差別をつけたものでないとしてもその主張は容認されない。
(六) 一方申立人は、昭和三十一年四月以降活溌に組合活動を行つてきたことが明らかに認められるので以上これらの事情を総合して本件差別は組合活動を阻害する意図のもとになされたものと判断する。
従つて労働組会法第七条第一号に該当する不当労働行為と認め主文「一」のとおり命令する。
(七) 申立人は、昭和三十一年十月分賃金支給日に臨時工は臨時手当の支給を受けたが、本工の組合員は支給を受けていないと主張する。これに対し被申立人は臨時工が本工の残業スト中特に骨を折り生産向上に努めたので慰労の意味で支給したと主張している。よつてまず臨時工が残業スト中特別に勤労したかどうかを検討する。
被申立人は、その最終陳述において、申立人組合が昭和三十一年十月四日から十一月十一日まで残業ストを行つた期間臨時工は早出残業等超人的な努力を払い生産向上に努めたと主張しているが第一回審問における申立人の陳述ならびに第二回審問における証人石井光雄の証言に徴すれば平常残業のある部門は昼夜操業のボイラー部門のみで、残業スト期間中も右部門以外において残業が行われたものとは認められない。
しかして、証人館沼利夫、鈴木勘蔵らの証言によれば、右残業は二十四時間操業の引つぎのため約三時間行われるのであり、組合の残業ストのため特に必要となつたものでないことが認定される。かつ、右鈴木証人は、ストのために特に骨を折つたことはないと思うと、また残業に対する割増賃金は別に支給されたと証言している。
これに対し被申立人は臨時工が特に早出残業をやつたこと、あるいは特に生産を上げたこと等についての具体的な立証をしていないからその主張は直ちに首肯できない。
(八) 一方申立人組合は、さきに述べたとおり組合活動を活溌に行い十月四日以降残業ストを行い、同九日には二十四時間ストを行つて会社と対決したことが明らかであるからこれらを勘案して、被申立人の右行為を、申立人の組合活動に縁由する差別待遇と判断する。よつて、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為と認定するが、申立人がこれについて積極的な救済を求めていないので、当委員会は、被申立人の申立人に対する右差別的意識ないし意図が継続的関連的に存したものとみて前記賃金遅払差別に対する判定の傍証として採用するに止める。
二、労働組合法第七条第二号違反救済申立について
(一) 申立人が、労働協約、賃金問題、職場再編成(以下編成問題という)について、昭和三十一年十月四日、同十三日、同二十二日の三回にわたり被申立人に対し団体交渉を申入れたこと、これに対し同十月四日及び同十一月一日の二回双方が話合つたことについては争がない。
(二) 右話合いが、団体交渉であるかどうかについて判断する。
審問における当事者の主張は何れもその主張に一貫性と明確さを欠くものがあるが、申立人の疎明書及び被申立人の答弁書ならびに双方の最終陳述を総合して判断するに右両日の話合いは実質的に団体交渉をなしたものと認定するに難くない。
(三) しかし、右十月四日の団体交渉において被申立人は、申立人がその交渉権を委任した栃木地区労働組合会議議長小向昭二及び栃木県労働組合会議事務局長萩原武(以下上部団体という)との交渉を拒否し、その理由として上部団体は第三者であること、第三者の手を煩わす問題でないこと等をあげていたことが認定される。
(四) また十一月一日の団体交渉においては、甲三号証ならびに被申立人の審問における陳述により、被申立人が上部団体との交渉を忌避する意思を継続的に有し、かつ同日申立人に対し、その意思表示をなしたことならびに編成問題については、申立人組合との団体交渉にも応じられない旨を回答したことが認められる。
(五) よつてまず、右上部団体との交渉を拒否したことの当否について判断する。
被申立人は、第三者の手を煩わす問題でないとしているが、この判断は、委任する側の申立人組合にゆだねられるべきで被申立人の介意する限りでないことは論をまたない。労働組合法は、その第六条において労働組合の委任を受けた者は労働組合または組合員のために使用者またはその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有すると規定し、また同第七条において使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを禁止している。
従つて「第三者」であつても労働組合の委任を受けたものであれば拒むことはできないところである。本件において上部団体を第三者であるとして、これとの交渉を拒否しようとする被申立人の主張は正当なる理由とは容認できない。
いわんや上部団体は、下部組合のためにその使用者と独自に交渉する権限を有しているところから、これとの交渉を拒むことは許さるべきではない。よつて被申立人の右行為を労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為として主文「二」のとおり命令する。
(六) 次に編成問題について団体交渉を拒否したことの当否について判断する。
被申立人は、右編成問題は会社の権限において決すべきことである限り団体交渉の対象とは考えないと主張するが、右は直接従業員の労働条件に重大な関連をもつものであるから会社側に権限が帰属するという理由のみで団体交渉の対象でないとすることは不当である。
よつて、被申立人の右行為を労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為と断定し主文「三」のとおり命令することを適当と認める。
三、労働組合法第七条第三号違反救済申立について
(一) 被申立人会社が、昭和三十一年九月二十九日職場再編成を発表し、栃木工場編成表なるものを申立人組合に示し同十月一日これを実施したこと、組合がこれに全面的に反対を表明したこと、右編成によつて臨時工稲垣がボイラー班(炉)の副班長に任命されたこと等は当事者間に争がない。
(二) よつてまず、被申立人が右稲垣を副班長に任命した理由に客観的妥当性があるかどうかについて判断する。被申立人は、右措置をよく働いてもらうための一時的便法であり一般の職制の例に見るべきではないと主張するが、職制上役付なるものは一般的にその呼称の如何を問わず経営の枢機として恒常的な監督または管理の部門に属することには誤はない。本件の場合も被申立人が能力本位、抜てき主義で人選を行つたと述べているところからもこれを裏書きするに十分である。
(三) 以上によつて、本件職制が監督または管理の部門としてのいわゆる「職制」である以上、臨時的に労働需要の変動に応じ安全弁として雇用する臨時工を副班長に起用することは常識的には到底肯定し難い。
(四) また被申立人はかつて稲垣裕司が本工として勤務したことをあげ同人の能力を称揚しているが、同人はボイラー無資格者であつた。しかるに被申立人は申立人の推せんしたボイラー有資格者を含む三名の副班長候補者を拒否するに際し積極的な説明も加えなかつたことが推認され、この点からも被申立人の右主張は肯認し難い。
(五) 一方申立人組合は、さきに述べたとおり組合活動を活溌に行い会社と対決したことが明らかとなつている。
よつてこれらを勘案するに、被申立人が組合対策として臨時工を優遇することによつて本工たる組合員に精神的影響を与え、それによつて組合活動を低調ならしめようとする意図のもとになした行為と判断せざるを得ない。
従つて労働組合法第七条第三号にいう労働者が労働組合を運営することを支配し、若しくはこれに介入することに該当する不当労働行為として主文「四」のとおり命令する。
本命令は、労働組合法第二十七条及び中央労働委員会規則第四十三条に基いてなしたものである。
昭和三十二年二月十四日
栃木県地方労働委員会会長 高橋徳